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手洗いの疫学とゼンメルワイスの闘い

本の紹介
      「手洗いの疫学とゼンメルワイスの闘い」
           玉城 英彦著 人間と歴史社(2017年2月)

 「疫学」を解説した医学書として捉え、姿勢を正して、ある程度身構えてページをめくってみた。しかし、読み進むうちに、壮絶な一人の人物・産婦人科医の生き様に引き込まれてしまった。著者の玉城英彦氏の人生観、社会観をからめての解説に酔い、最終章まで一気に読み通した。疫学という学問の重要性とその魅力の解説をとうして、現代の若者に刺激を与えることを意図とした力のこもった著作である。

 「手洗い」。現代社会においては感染症予防のための常識となっている。常識が、常識ではなかった時代が存在したことに驚いた。妊娠・出産が命がけの時代があったのだ。産婦人科医、ゼンメルワイスの「産褥熱」との闘いの物語でもある。大病院での出来事であった。産褥熱で4人に1人の若き女性が出産後に死亡した。「産みの苦しみ」として片づけられていた時代である。

 

 その時代においても格差社会は存在した。自宅での、助産師による出産ではさほど産褥熱による死亡はなかった。裕福な家庭は、自宅での出産が一般的であった時代である。名もない、貧困にあえぐ人々が病院に収容され、研修医の餌食となった。
 「産褥熱」の要因を疫学的手法で紐解いていく過程での葛藤。研究者の一途な探求心と正義感。そして自らの性格が転じて、それをとりまく社会との確執の中で紆余曲折の悲惨な物語を演出する。医原病の究明の一場面であり、著者が以前に出版した「社会が病気をつくる」の側面を覗かせる物語でもある。

 著者の玉城英彦氏は沖縄県本島の北部、古宇利島の出身である。私と同期で、名護高等学校で青春時代を過ごした仲間である。長年にわたり世界保健機関(WHO)において活躍した。エイズに関する疫学に取り組んだ。著作には故郷、古宇利島を描いた「恋島への手紙~古宇利島の想い出を辿って」(新星出版)、「社会が病気をつくる~持続可能な未来のために」(角川学芸出版)、「世界へ翔ぶ~国連機関をめざすあなたへ」(彩流社)等がある。現在の肩書きは、北海道大学名誉教授・北海道大学国際連携機構特認教授となっている。

 

 私は現在、30数年の呼吸器外科医としての生活に終止符を打ち、日々、介護老人保健施設で約100名の高齢者の方々の診療に従事している。「がん」の診療から一転して、人間の老化の過程と対峙している。「エビデンス・ベイスト・メディシン](EBM:Evidence-based Meddicine)と称された事実のみが良しとされた世界から、EBM(根拠に基づく医学)がすんなりとは適応しがたい「ナラティブ・ベイスト・メディシン」(NBM:Narrative-based Medicine)への転換であった。このEBMからNBMの世界への衝撃を、なんとかうまく組み立てることを考えていた矢先に、今回のゼンメルワイスの生き様に出会い、衝撃を受けた。大学紛争を経験した最後の世代である。随分と遠回りをしたことを反省はしているが、遠回りも無駄なことばかりではなかったと考えている。

 著者は現代の若者に呼びかけている。社会との関わりの中で、真理を追究する情熱と大志を抱き続ける忍耐をもって、進んで灯りをともす努力を惜しまないことを。そして、あせらず、たゆまず、「急がば回れ」と。一読をお勧めいたします。
      介護老人保健施設「あけみおの里」施設長 石川清司